寺田寅彦随筆集第一巻

a0002458_8275483.jpg寺田寅彦随筆集第一巻
寺田 寅彦 (著), 小宮 豊隆 (編)

夏目漱石の弟子で地球物理学者の寺田寅彦先生の随筆集の岩波文庫第一巻です。

青空文庫がテーマごとに分かれているのに対して、岩波文庫はいろんな話が詰め合わせになっている感じです。

冒頭の「どんぐり」は亡き妻の思い出。かなりセンチメンタル。「竜舌蘭」も「花物語」も花にまつわる思い出や随想を書いたもので、「花物語」は夏目漱石の小品集を思わせる雰囲気があります。自然が丁寧に描写されていて、、著者の自然に対する暖かなまなざしが感じられます。

「旅日記」「先生への通信」は旅行の日記。前者は日本からヨーロッパへ移動する道中で後者はヨーロッパでの滞在記。現在では飛行機で一日で着いてしまいますが、船での長旅とようやくたどり着いた先で人々との交流の様子を垣間見ることが出来ます。

「科学者と芸術家」「物理学と感覚」は科学者である寺田先生の本領が発揮されるエッセイです。芸術と科学のような相反するようなものにも実は類似点が多くあり、芸術にも科学的な分析のされ得る可能性があるだろうということや、科学者と芸術家は似たもの同士だということが書かれています。

「病院の夜明けの物音」「病室の花」「自画像」「芝刈り」は病を患ってからの日記。友人が見舞いと共に持ってきてくれる花の観察とその花が枯れていく描写が感慨深く、最後に、
 「人が見たらなんでもないこの貧しい記録も自分にとってはあらゆる忘れがたい貴重な経験の総目次になるように思われる。」
と書いていることも痛々しいです。「自画像」「芝刈り」は打って変わり、療養中に自画像を描くことにはまったり、運動不足解消に芝刈りをしてみようと思い立ったり、あれこれ試行錯誤をする様子が描かれています。

「丸善と三越」「写生日記」も面白い。寺田先生の休日の過ごし方です。丸善と三越の店内とその周辺や電車で日帰りで行ける東京の郊外の当時の様子が描写されており、現在と比較してみるのは一興と思います。

科学者らしい物事の観察と考察だけでなく、それを丁寧に文面に描写できることに感服しました。
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by ikumuw | 2006-07-09 05:21 | books | Comments(0)


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